住宅ローンの一括返済は、ローンを組んで長期にわたって返済するはずのお金を一括で返済することです。
手元に住宅ローンを返済できる余裕資産があるのであれば、金利削減効果が高いのでメリットが大きいです。
しかし、一括返済にはメリットだけではなく、返済する際に気を付けるべき点もあります。
この記事では住宅ローンの一括返済のメリット・デメリット、手続きの方法についても解説していきます。
住宅ローンの一括返済とは?
住宅ローンの一括返済は、「全額繰り上げ返済」とも呼ばれ、長期にわたって返済するはずのローンの残高を一度で完済することです。
一部繰り上げ返済は、通常の返済とは別にローンの残高の一部を返済することで、全額繰り上げ返済はローンの残高を全額返済するので全額繰り上げ返済と呼ばれます。
また、一部繰り上げ返済にも種類があり、返済期間短縮型と返済額軽減型があります。
返済期間短縮型の繰り上げ返済は、毎月の支払額は変わりませんが、返済の期間が短縮されます。
一方、返済額軽減型の繰り上げ返済は、返済の期間は変わりませんが、毎月の支払額が軽減されます。
どちらの繰り上げ返済にもメリットがありますが、一括返済はこれらの繰り上げ返済と比較して金利削減効果が高いのが特徴です。
それでは、具体的に一括返済ではどれくらいの利息の削減が期待できるのでしょうか?
次の項では実際に例をあげて一括返済のシミュレーションをしていきます。
住宅ローンの一括返済のシミュレーション
それでは、実際に住宅ローンの一括返済のシミュレーションをしていきましょう。
金利3%で3000万円を30年で返済するローンを組んだとして、10年目に一括返済をする場合の借入残高(一括返済額)は、2,280万5,902円です。
この残高を一括返済した場合、返済総額は、3,798万3,622円になります。
一括返済をしなかった場合の返済総額は、4,553万3,001円となるので、一括返済により削減された利息は、754万9,379円になります。
また、15年目、20年目に一括返済する場合の返済額と利息は10年目のシミュレーションとは大きく異なります。
10年目、15年目、20年目に一括返済した場合のシミュレーションについて下記にまとめました。
概要 | 返済額 | 返済総額 | 削減された利息 |
10年目に一括返済 | 2,280万5,902円 | 3,798万3,622円 | 754万9,379円 |
15年目に一括返済 | 1,844万1,583円 | 4,108万1,682円 | 445万1,319円 |
20年目に一括返済 | 1,322万5,002円 | 4,345万3,961円 | 207万9,040円 |
このように削減される利息が5年経つごとに大きく減少していることが分かります。
つまり、一括返済は返済する時期が早ければ早いほど利息削減の効果が高いことになります。
しかし、できるだけ早い時期に一括返済をすればよいかといえば必ずしもそうではありません。
場合によっては、住宅ローン控除が受けられなくなってしまう可能性などがあります。
住宅ローンの一括返済はタイミングが重要で、タイミングを間違えてしまうと、損をしてしまう可能性があります。
シミュレーションを踏まえたうえで、住宅ローンの一括返済のメリット・デメリットについて解説していきます。
住宅ローンの一括返済のメリット
住宅ローンの一括返済には3つのメリットがあります。
- 金利削減効果が高い
- 家計にかかる毎月の負担がなくなる
- 戻し保証料が発生する
金利削減効果が高い
住宅ローンの一括返済は、返済額を一括で返済するので一部繰り上げ返済よりも金利削減効果が高いのが特徴です。
シミュレーションで確認した通り、一括返済の時期が早ければ早いほど金利削減効果が見込めます。
返済期間も大きく短縮されるので、残りの返済期間が長くまとまった余裕資産があるのであれば、一括返済はメリットが大きいといえるでしょう。
家計にかかる毎月の負担がなくなる
ローンの返済は毎月家計に負担をかけることになります。
余裕資産を使って一括返済をすることができれば、毎月ローンの返済をする必要がなくなります。
ローンを返済することで毎月の支払いがなくなるのはメリットであるといえます。
戻し保証料が発生する
残りの返済期間にもよりますが、ローン契約時に一括で保証料を支払う契約をして一括返済をおこなうと保証料が返ってくる可能性があります。
例えば、保証料の支払いを一括前払いにしていた場合、一括返済をすると保証料を払い過ぎている状態になるので保証料が返ってきます。
ただし、戻し保証料にも手数料がかかり、残存期間によっては戻し保証料が手数料を上回ると返金されないケースがあります。
また、保証料の手数料はりそな銀行で、11,000円(税込み)となっています。
住宅ローン一括返済のデメリット
ここまで住宅ローン一括返済のメリットについて解説してきましたが、一括返済には3つのデメリットがあります。
- まとまったお金が必要
- 住宅ローンの控除が受けられなくなる
- 団体信用生命保険がなくなる
まとまったお金が必要
最初のデメリットとしては、一括返済にはまとまった資産が必要であるということです。
しかし、住宅ローンの一括返済は余裕資産の中でやるべきであり、無理に返済するのはリスクが非常に高いです。
一括返済をしたあとに不意の病気やケガをした場合や、突然の出費が発生した場合に、手持ちの現金が足りないという事態になっては本末転倒になってしまうからです。
残存期間にもよりますが、一括返済はまとまった資産が必要なので、十分な余裕資産を持って計画的に返済しましょう。
住宅ローンの控除が受けられなくなる
シミュレーションの際に住宅ローンの一括返済はタイミングが重要であるといいましたが、返済が早すぎると住宅ローンの控除が受けられないデメリットがあります。
住宅ローンには、住宅借入金等特別税額控除(住宅ローン控除)があり、入居してから10年間は最大で40万円の税金の控除が受けられます。
しかし、その期間内に一括返済をおこなってしまうと、控除の恩恵が少なくなってしまいます。
一括返済は10年間通常の返済をしてからおこなうと、控除をすべて受けることができます。
もし10年以内に一括返済をしたい場合は、税金の控除を受けるほうがお得なのか、一括返済をするほうがお得なのか考えてから返済するほうがよいです。
また、住宅ローン控除などの税金の控除について詳しく知りたい方はこちらの記事をチェックしてください。
住民税の控除について!控除額の計算方法や確定申告の手続きなど
団体信用生命保険がなくなる
住宅ローンには控除だけでなく保険も適用されています。
団体信用生命保険はローンを組む人のほとんどが加入する保険で、ローンの契約者が死亡した場合などの条件を満たすと、その後のローンの返済が免除される保険です。
仮に、一括返済をしたタイミングで契約者が死亡してしまった場合は、本来払う必要のないローンを返済することになり、その上で余裕資産を残していないと残された家族がデメリットを被る可能性があるということです。
一括返済にはメリットもありますが、ローンを組むことによるメリットもあるので、一括返済でローンを完済することになるとローンのメリットが受けられなくなります。
一括返済の前には、税金の控除や保険などを失うデメリットがあることも確認してから返済しましょう。
住宅ローンの一括返済の手続きの方法
一括返済のメリットとデメリットについて理解したところで、今度は具体的な手続きの方法について見ていきましょう。
一括返済の手続きの手順は銀行によっても異なりますが、ここではりそな銀行の店頭・パソコンテレビ電話を使った一括返済の手続きの方法を紹介していきます。
- シミュレーションの作成
- 全額繰上返済依頼書の提出
- 返済用預金口座に入金
- 抵当権抹消手続きをおこなう
- 一括返済完了
まず、返済用預金口座の通帳と印、返済予定表を用意し、一括返済のシミュレーションを作成していきます。
自分でもあらかじめシミュレーションをしてから返済するほうがよいですが、専門のオペレーターと一緒に再確認をすれば安心して一括返済ができると思います。
次に、シミュレーションの結果を確認した上で、全額繰上返済依頼書に必要事項を記入し提出します。
一括返済の前営業日までに返済用預金口座に返済額を入金します。
しかし、一括返済の手続きはここで終わりではありません。
ローンを完済した場合は抵当権抹消手続きをおこなう必要があります。
抵当権は住宅ローンの借り入れで生じる銀行の権利であり、ローンを組む際は家や土地などの不動産を万が一返済がおこなわれなかった場合の担保にする契約をしなくてはなりません。
その契約をローンの返済とともに解除する必要があるので、抵当権抹消の手続きが必要になります。
抵当権の抹消に関しては銀行からも案内があると思いますが、自分で手続きする方法と司法書士に依頼する方法があります。
案内に従ってどちらの方法で抹消手続きをするか選択しましょう。
抵当権の抹消手続きが完了することで、住宅が担保から外れ売却も可能となるので、法的にも一括返済が完了したことになります。
住宅ローンの一括返済の手数料
住宅ローンの一括返済の手数料は、インターネットから返済するか、窓口から返済するかで手数料が異なります。
例えば、三井住友銀行では窓口で手続きをした場合は専用パソコンによる手続きで11,000円、書面で22,000円の手数料がかかりますが、インターネットから返済した場合の手数料は5,500円になります。
基本的に他の銀行の場合でも、インターネットから返済をした場合は手数料が安いことが多いです。
インターネットバンキングで返済する場合は、繰り上げ返済であれば無料であることも多く、一括返済の手数料も窓口と比較して非常に安いです。
住宅ローンの一括返済は手数料を考えるのであればインターネットから返済することをおすすめします。
住宅ローンの一括返済がおすすめな人
住宅ローンの一括返済はこのような人におすすめの返済方法になります。
- 一括返済ができるほど大きな収入があった人
- 契約当初から計画的に一括返済をおこなえる人
一括返済ができるほど大きな収入があった人
遺産の相続や贈与など思わぬところから大きな収入があり、余裕資産ができた場合は住宅ローンの一括返済はおすすめになります。
ただし、相続や贈与などの思わぬ余裕資産で返済する場合はよいのですが、退職金で一括返済をする場合は注意が必要です。
例えば、40歳で40年の住宅ローンを組み65歳で退職した場合、残り15年分の残高を退職金で一括返済することになります。
既に25年経っているので金利削減効果の期待値は高くなく、退職をしたことで安定した収入が得られなくなり生活が苦しくなるデメリットのほうが大きいです。
退職とともに住宅ローンから解放されたいと考える人もいるかもしれませんが、準備をせず大きな収入が入ったからといって退職金を一括返済に回すのは危険です。
契約当初から計画的に一括返済をおこなえる人
一括返済がおすすめな人は契約当初から計画的に一括返済ができる人です。
一括返済はタイミングを間違えてしまうと、控除や保険がきかなくなり損をしてしまうケースもあります。
そのため、契約から何年後に一括返済をするのか、余裕資産をどのように用意するのかを考えておく必要があります。
また、住宅ローンの金利は今後変動する可能性もあります。
そのことも考えて、一括返済をすることで金利の上昇に対して対策することもできます。
ローンのメリットや金利の上昇について考えながら、一括返済の計画を立てることができる人に一括返済は向いているといえるでしょう。
まとめ
住宅ローンの一括返済について理解していただけたでしょうか?
住宅ローンの一括返済は金利の削減効果だけを見るとメリットが大きいですが、デメリットもあります。
メリットとデメリットを理解した上で計画的に余裕資産で一括返済をするのがリスクの少ない一括返済の方法といえるでしょう。
この記事を参考に自分は一括返済をするべきかどうか確認して、将来の家計の負担をできる限り和らげていきましょう。