富裕層はなぜハイパーカー・スーパーカーなどの名車に魅了されるのか? – 資産としての価値と節税効果

たった一台の名車。ハイパーカー、スーパーカー、クラシックカーと呼ばれるそれは、単なる鉄の塊ではなく、歴史を纏い、芸術性を宿し、そして時には優れた金融商品ともなる、多面的な価値を持つ存在です。

多くの人々が趣味や道楽の世界を思い浮かべるかもしれませんが、その市場の内実を探ると、富裕層や経営者たちが極めて合理的かつ戦略的にハイパーカー等を求めている姿が浮かび上がってきます。

近年では金融資産としての側面が強調され、オルタナティブ投資の一環として大きな注目を集めているのです 。

なぜ彼らは、数千万円、時には数億円もの大金を投じてこれらの車を求めるのでしょうか。本記事では、その多角的な理由を探るべくINVEEK取材チームが実際に日本国内のフェラーリ専門店へ趣き、調査で得られた現場の声を交えながら、深く掘り下げていきます。

目次

投資対象としてのハイパーカー – 乗るためではなく「資産」として

ハイパーカー等の市場が投資家から熱い視線を注がれる最大の理由は、その驚異的な成長性にあります。この動向は、実際の販売現場でも裏付けられています。

調査チームがフェラーリ専門店で「車を資産で買いに来る方がいらっしゃるんですか?」と尋ねたところ、スタッフは「その方が多いと思います。乗るためじゃなくて」と即答しました。

この言葉は、多くの購入者の第一目的が、日々の足として利用することではなく、将来的な価値上昇を見据えた純粋な「投資」であることを明確に示しています。

驚異的な投資リターンと市場の安定性

英国の不動産コンサルタント会社Knight Frankが毎年発表する富裕層の動向レポート「Wealth Report」によれば、ハイパーカー等の価格は過去10年間で185%も上昇しており、これは同期間の株式、アート、ワインといった他の投資対象を上回る驚異的な成長率です。

2004年から2014年にかけては、ハイパーカー市場全体で500%もの上昇を記録した時期もありました。特に人気の高いモデルは、年間で8〜10%の着実な価値上昇が見込めるほどのポテンシャルを秘めています 。

市場は過去数十年、年率で二桁成長を維持しており、年間での最大損失も5%程度と、比較的安定している点も投資対象としての魅力を高めています 。実際に、2023年から2024年前半にかけて市場が一時的な弱気相場を経験した際でさえ、年間で1.2%の成長を記録したというデータもあります。

ポートフォリオを安定させる資産分散効果

ハイパーカー等は、株式や債券といった伝統的な金融資産との価格の連動性(相関)が低いという大きな特徴があります 。これは、金融市場が不況に陥り株価が下落するような状況でも、ハイパーカー等の価値は影響を受けにくく、むしろインフレ時には価値が上昇する傾向さえあることを意味します 。

そのため、資産ポートフォリオに組み込むことで、市場の変動リスクをヘッジし、全体の安定化に寄与する「守りの資産」としての役割も果たすのです。

継続的な需要の成長と新たなトレンド

ハイパーカー市場の堅調な成長を支えているのが、富裕層の旺盛な需要です。世界の超富裕層(UHNWI)の約3分の1が車を収集しており、その人口は5年ごとに30〜50%のペースで増加しています 。この強固な買い手市場が、市場全体の価格を下支えし、安定した成長に繋がっているのです。

近年では、製造終了から15年以上が経過した「ヤングタイマー」と呼ばれる比較的手頃な価格帯の車も注目されています。特に1980年代から90年代初頭のモデルが人気を集めていると指摘されており、「新たに入った若い富裕層の購入者が、かつて自室の壁に貼っていたポスターを現実にしている」との声もあります。

これらは将来的な価格上昇が期待できるため、新たな投資の入り口としても人気を集めています。

節税と減価償却 – 経営者が選ぶ「法人所有」という賢い選択

ハイパーカー等が、特に企業の経営者にとって魅力的なのは、法人名義で購入することによる税務上のメリットです。

現場スタッフの証言

現場のスタッフも「法人様購入は皆さんそう。償却取りながらリセールバリューも上げて、損とぶつけたり」とその実態を語っており、計画的な資産運用の一環として戦略的に活用されていることがわかります。

ハイパーカー等は、一定の条件を満たせば減価償却資産として経費計上が可能です。車両のような資産は、法律で定められた「法定耐用年数」に基づいて、毎年価値が減少していくものとして会計処理されます。この価値の減少分を「減価償却費」として経費計上することで、法人税の課税対象となる所得を圧縮し、納税額を抑える効果が期待できます。

特に、製造から時間が経過した中古車(クラシックカー等)は、法定耐用年数が新車よりも短く設定されています。調査時には現地スタッフも「償却4年ですね」と具体的な年数を言及していましたが、これは中古車の耐用年数の計算式に基づくものであり、場合によっては短期間での償却が可能です。

会計上の価値と相関しない実際の市場価値

重要なのは、この会計上の価値減少と、実際の市場価値が連動しない点です。価値の落ちにくいハイパーカー等であれば、会計上は価値がゼロに近づいても、市場でのリセールバリューは高いまま維持される、あるいは上昇することさえあります。

つまり、減価償却によって税制上のメリットを享受しつつ、売却時には購入価格に近い、あるいはそれ以上の金額を回収できる可能性があるのです。これこそが、経営者たちがハイパーカー等を「節税と資産形成を両立できる賢い投資先」と見なす最大の理由と言えるでしょう。

また、法人所有であれば、保険料や修理・保管といった多額の維持コストも経費として計上できるため、そのメリットはさらに大きくなります。

 所有する喜びと社会的価値 – 数字だけでは測れない「エモーショナル・アセット」

もちろん、ハイパーカー等の魅力は金銭的な価値だけではありません。所有すること自体がもたらす感情的な満足感 や、ステータスとしての価値も非常に大きな要素です。これらは「エモーショナル・アセット(感情的資産)」とも呼ばれ、所有者の人生を豊かにする無形の価値を持ちます。

調査に訪れた店舗では、スタッフが特別にフェラーリ458のエンジンをかけてくれました。その「フェラーリサウンド」は、現代の車では決して味わえない、魂を揺さぶるようなアナログな体験であり、これこそが「感情的満足」 の本質だと感じさせられました。

コレクションとしての価値

2024年に行われた調査では、コレクターがハイパーカー等を所有する最も大きな理由は「運転する個人的な楽しみ」で102件、次いで「コレクションすること」が51件でした 。

McKinsey2024CollectibleCarSurvey

上記アンケート調査では「投資対象として側面」と完全に切り離された純粋な「コレクションすること」を集計しており、これが理由の2位になることからも「エモーショナル・アセット」として人々がハイパーカーを収集することの裏付けになっています。

同じ趣味を持つ人々の「ネットワーク」としての役割

また、ハイパーカー等は「ステータスシンボル」として 、あるいは同じ趣味を持つ人々との「ネットワークアクセス」の手段としても機能します 。

世界最大規模のオークションであるモントレー・カー・ウィーク(米国カリフォルニア州モントレーで毎年8月に開催される一連の自動車イベント) や、伝統あるグッドウッド・フェスティバル(英国ウエスト・サセックス州で開催されるモータースポーツの祭典) といったイベントは、単なる売買の場ではありません。

世界中からトップコレクターや投資家、各界の著名人が集う重要な社交の場としての役割も担っており、そこで築かれる人脈もまた、所有者にとって大きな資産となるのです。

さらに、オーナーズクラブへの加入も魅力の一つです。ただし、そこには厳格なルールも存在します。店舗のスタッフによると、フェラーリのオーナーズクラブでは、純正ではないエアロパーツなどを装着したカスタムカーは加入が認められない場合があるとのことでした。これは、ブランドのオリジナル性を尊重する文化が根付いている証拠であり、こうしたコミュニティの存在が、ハイパーカー等の価値をさらに高めているのです。

まとめ

富裕層や経営者がハイパーカー等に投資する理由は、単なる趣味や道楽という言葉では片付けられません。そこには、高いリターンが期待できる「投資」対象としての側面、法人税の負担を軽減する「節税」という実利的な側面、そして何よりも所有することで得られる「喜び」や社会的ステータスという感情的な側面が複雑に絡み合っています。

これら三拍子が揃ったハイパーカー等は、変動の激しい現代において確固たる価値を持つ、極めて合理的かつ魅力的な資産と言えるでしょう。今後、自動車業界のEV化が進むにつれて、内燃機関を持つハイパーカー等の希少価値は「絶滅危惧種」としてさらに高まる可能性があり 、その存在感はますます増していくに違いありません。

次の記事では、ハイパーカーの中でも圧倒的なブランド価値を持つフェラーリランボルギーニについて、その魅力と市場価値をお伝えしていきます。

ハイパーカーへの投資にご興味がありましたら、ぜひINVEEKへお問い合わせください。

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