個人年金保険とは、老後の生活費の要となる公的年金に上乗せする自分のための年金づくりをする保険です。
将来もらえる年金が不十分だと言われるなか、老後の生活に不安を感じる人は少なくありません。そんな不安に備えるべく自助努力による方法のひとつとして、個人年金保険は利用されています。
現在加入を検討している人のなかには、年末に行う確定申告や源泉徴収にある「個人年金保険料控除」という控除枠が前々から気になっていた、という人もいるのではないでしょうか。
ここでは、これから加入を検討している人向けに、個人年金保険の役割や、受けられる税金控除、加入するメリット・デメリットなどを解説していきます。
それでは、順番にみていきましょう。
公的年金と個人年金保険の違いとは
公的年金は加入必須
お住いの市区町村で加入する国民年金や、会社で加入する厚生年金は、国が加入を義務付けている「公的年金」です。日本国内に住む20歳以上の人は全員加入しなければなりません。
ただしきちんと保険料を納めていれば、受給資格を満たした際にはこのような年金を受け取れます。
- 高齢になったときの【老齢年金】
- 重度の障害を負ったときの【障害年金】
- 一家の大黒柱が亡くなってしまったとき遺族へ給付される【遺族年金】
出典:厚生労働省ホームページ
基本的に、老後のための生活資金である老齢年金は、65歳から受給が開始します。
そして、受給要件を満たした人が「定年後の60歳から64歳までの期間にも年金を受け取りたい」と希望する場合に限り、年金の受け取りを早める繰り上げ受給も可能です。
その際は繰り上げ期間に応じて年金額が減額されてしまうので気をつけましょう。
反対に「経済的に余裕があるのですぐに受給しなくてもいい」という人は、あえて66歳から70歳の期間まで受け取りを遅らせる繰り下げ受給も選べます。
遅らせた期間に応じて年金額が増額するので、少しでも老後資金を増やしたい人にとっては有効な方法です。
出典:厚生労働省ホームページ
個人年金保険は任意加入
生命保険等と同じように民間の保険会社から販売されている「個人年金保険」は、老後資金のために自分の好きな金額を積み立てられる、比較的自由度の高い年金です。
公的年金とは違い、特に加入は義務付けられていません。
「将来もらえる年金額が少なくて、本当にやっていけるのか不安」
「60歳の定年後は働かず、貯金も切り崩さなくて済むように準備しておきたい!」
上記のような不安を解消したい人や、老後資金の目的が明確な人が、必要に応じて任意に加入します。
- 定年後の60歳から公的年金の受給開始までのつなぎ資金
- 将来もらえる公的老齢年金に上乗せするため
- 個人年金保険料控除を上手く活用しながら貯蓄するため
……など
受給開始の年齢や年金額は、自分で自由に決められます。
将来受け取りたい金額から設定しても良いですし、とりあえず自分が毎月無理なく支払える保険料から算出して年金額を決めても良いでしょう。
年金受給期間には確定年金(有期年金)と終身年金の2種類がある
個人年金保険には、年金を受け取る期間が定められている確定年金(有期年金)と、受給開始から亡くなるまで一生涯にわたり無期限に受け取れる終身年金があります。
確定年金
(有期年金) |
5年・10年・15年など、契約時に決めた一定期間のみ年金が受け取れる年金。
(ただし、確定年金は被保険者が亡くなっても契約した期間は年金が支払われますが、有期年金は被保険者が亡くなると年金は支払われません。) |
終身年金 | 受給開始年齢から被保険者が亡くなるまで一生涯にわたり受け取れる年金。 |
加入したい期間が決まっている人は確定年金(有期年金)で必要な一定期間だけ備えれば、保険料が割安におさえられるので節約につながります。
期間は決めずに老後の生活をしっかりとカバーしておきたい人には、終身年金がおすすめです。公的年金の受給とあわせた、一生涯続く手厚い年金が準備できるでしょう。
ただし終身年金は確定年金よりも保険料が割高なことから、万が一長生きしなかったときには大きく損をしてしまうという弱点もあります。
保証期間とは
個人年金保険に付いている保証期間とは、被保険者が受給を開始してすぐ(保証期間中)に亡くなっても、保証期間内は引き続き遺族が受け取れるという、最低限の支給期間を設けたものです。
確定年金では被保険者の生死に関係なく受給できる期間が確約されていますが、通常の有期年金や終身年金では被保険者が亡くなると年金が受給できません。
せっかく高い保険料を払い込んでも受け取れなければ加入する意味がないため、現在は各保険会社から保証期間付き終身年金や保障期間付き有期年金が多く販売されています。
個人年金保険で受けられる税金控除
個人年金保険料控除とは
一定の要件を満たす個人年金保険に加入した人は、確定申告や源泉徴収の際に「個人年金保険料控除」が利用できます。
「個人年金保険料控除」とは、その年の所得から同年に払い込んだ個人年金の保険料の全額または一部を、所得金額から差し引いてもらえる制度です。
所得金額が下がった分、所得税や住民税が減って、後から還付されます。
貯蓄をしながら節税もできるこの制度は、個人年金保険に加入する際はぜひ活用したいメリットのひとつです。
では実際に、どのような条件を満たすと適用されるのでしょうか?
個人年金保険料控除の条件
控除の対象となる条件には、保険料の払込期間や受け取り方、個人年金保険料税制適格特約の付帯、などがあります。
以下の表に、控除を受けるための諸条件を比較してまとめました。
対象となるケース | 対象とならないケース | |
---|---|---|
被保険者 (かつ夫婦のいずれか) |
年金の受取人 | 被保険者と異なる |
10年以上 | 保険料の払込期間 | 10年以下の短期払い 一時払い |
60歳以上 | 年金が開始する年齢 | 59歳以下 |
10年以上、終身 | 支払われる期間 | 5年などの短期の 確定年金(有期年金) |
付帯 | 個人年金保険料 税制適格特約 |
なし |
「個人年金保険料控除」を受けるには、上記の対象となるケースにあるすべての条件を満たす必要があります。
万が一、条件を満たさない場合も「一般の生命保険料控除」で控除を受けられますが、他にも対象となる保険の種類が多い控除枠なので、すでに上限を超えている可能性が高いです。
せっかくの控除枠をムダにしないためにも、なるべく分けて申告することをおすすめします。
個人年金保険料税制適格特約とは
個人年金保険料税制適格特約は、個人年金保険を契約するときに、一般の「生命保険料控除」とは別枠の「個人年金保険料控除」を受けるために付帯する特約です。
この特約を付帯している保険契約でないと、「個人年金保険料控除」の対象にはなりません。
また、この特約を付帯するには、上記の個人年金保険料控除を受ける際と同様の条件を満たす必要があります。
- 年金の受取人が被保険者と同一で、契約者本人または配偶者のいずれかであること
契約者 | 被保険者 | 受取人 |
---|---|---|
夫 | 夫 | 夫 |
夫 | 妻 | 妻※ |
※ただし契約者と受取人が異なる場合は、受給開始時に贈与税が課税されてしまいます。
- 保険料の払込期間が10年以上であること
- 年金の受給開始年齢が60歳以上であること
- 年金の受給期間が10年以上であること
なお、この特約を付帯した保険契約は、後から保険内容を変更するのに制限が付きます。契約前には必ず制限事項をチェックしておきましょう。
控除される上限金額
個人年金保険に加入していれば、いくらでも所得控除してもらえるわけではありません。なぜなら、控除される金額には上限があるからです。
平成24年1月1日以降に加入した個人年金保険は、新制度といわれる控除金額が適用されます。
<新制度>所得税の控除額
年間の支払保険料額 | 控除される金額 |
20,000円以下 | 支払保険料の全額 |
20,001円~40,000円 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,001円~80,000円 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,001円~ | 一律40,000円 |
<新制度>住民税の控除額
年間の支払保険料額 | 控除される金額 |
12,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
12,001円~32,000円 | 支払保険料等×1/2+6,000円 |
32,001円~56,000円 | 支払保険料等×1/4+14,000円 |
56,001円~ | 一律28,000円 |
控除の上限額は、所得税で4万円、住民税で2.8万円です。
この控除枠のみで考えると、そう大きく差し引かれるという印象はありません。しかし「一般の生命保険料控除」「介護医療保険料控除」の3つの枠をうまく活用できれば、控除額の合計は、最大で所得税で12万円、住民税で7万円にもなります。
知っておきたい個人年金保険のメリットとデメリット
メリット
- 半強制的にしっかりと貯められる
- 保険料の払込中は所得控除が受けられて節税効果が高い
- 老後資金が増えるので安心感がある
個人年金保険のメリットは、毎月きちんと貯蓄ができて節税にもなることです。
収入があり保険料を払い込んでいる間はずっと控除されるので、たとえ所得税や住民税の減税額が年間で数千円~数万円程度だったとしても、最終的な総年数ではなかなかの金額となり侮れません。
その分をさらに貯蓄に回せると非常に効率的ですね。
デメリット
- 途中で解約するとほとんどの場合は損をする
- 昔ほど利率の良い商品がなくリターンが少ない
- 物価上昇に対応できず価値が下がる心配もある
個人年金保険は、途中で解約しても「解約返戻金」は払い込んだ保険料額よりも少なくなるのが一般的です。どのくらい戻ってくるのかは、保険商品や加入年数によって異なります。
また現在の個人年金保険は、銀行に預けているのとさほど変わらない利率のため、預けていてもほとんど増えることはありません。
利率や運用効果が高いわけでもなく、途中解約すると損をしてしまう流動性の低さは、大きなデメリットといえるでしょう
個人年金保険に向いている人とは
メリットとデメリットをみると、誰でも加入すれば安心とまでは言えません。では個人年金保険に向いている人とは、どのような人でしょうか。
- 無理なく貯められて、解約する可能性の低い人。
- 「個人年金保険料控除」を有効活用したい人。
- インフレに対応する運用よりも、低リスクな積立で安全に貯めたい人。
まずはデメリットである途中解約を避ける意味でも、余裕のある資金から保険料を支払っていける人が良いでしょう。
なおかつ「利率で増えなくても、節税による還付があればいい」と割り切れる人なら、個人年金保険に加入するメリットがありそうです。
まとめ
個人年金保険に加入する際は、公的老齢年金のことをふまえて検討することをおすすめします。
ただやみくもに契約するのではなく、自分自身がもらえる公的老齢年金の大まかな年金額を知り、自分の生活にかかる費用から「あといくら必要か?」を知ることが大切です。
そうすれば無理もムダも少なく、より自分に合った個人年金保険を選ぶことができます。
さらには具体的な目標があることで、長期的な視点で貯めることの必要性を実感でき、継続していくためのモチベーションにつながるかもしれません。